WASEDA UNIVERSITY
              
 
 

 SGFETを用いたDNAセンサ

(文責: 中村 雄介 ・ 古川 慧)

 
 

めざましい医療技術の進歩に伴い、オーダーメイド医療やゲノム製薬といった、一昔前までは到底実現することができないと思われた医療技術が、ここ数年のうちに実現する可能性が出てきています。こうした医療を実現させるために、タンパク質やDNAの持つ重要な情報を高感度に検出する技術の開発が求められています。
21世紀になりヒトゲノムの全情報が解読されたわけですが、そこから得られた情報の中で特に重要視されているのは疾病の治療や予防のための多型の分析です。実は同じ遺伝子であっても個々人によってわずかに異なる部分が存在します。それがSNPs(Single Nucleotide Polymorphism:一塩基多型)です(図1)。

SNPsは数百塩基に一つ程度の割合で存在し、そのたった一つの塩基の相違が個人間の体質の違い、薬剤の効き目、副作用の有無などに関わるということがわかってきました。SNPsを利用した新しい医療として、個々人の体質に合わせた治療法の選択をおこなうオーダーメイド医療や、ゲノム情報に合わせて薬剤自体の調節を行い患者に最適な薬を提供するゲノム製薬が考えられています。そうした医療においてSNPsはきわめて重要な情報でありまして、簡便かつ高感度に検出することが早急な課題となっています。 

こうしたSNPsの探索や診断に有用なツールとして注目されているのがDNAセンサです。近い将来実現可能になると考えられますこのような医療には、DNAセンサの発展は欠かせません。現在ではDNAチップとして既に発売されているものもあります。しかし現在主流なDNAの検出法では、手間やコストがかかりすぎたり、危険を伴ったりするため、病院で手軽に自分のDNA情報を知ることは困難だと考えられます。
こうした背景をふまえ、ヒトゲノム解析が終了し高度医療への応用が期待されるDNAの高感度検出に向けて、我々はダイヤモンドSGFETを用いてDNAセンサを開発しその特性の評価を行いました。

 

図1 SNP

 

図2 SGFETを利用したDNA線差作製の背景

 
DNAはリン酸基による負電荷を持っていますが、ハイブリダイゼーション (互いに相補的な1本鎖DNA同士が結合して2本鎖になる現象) を行うことによりその負電荷は約2倍になります。SGFETのチャネル表面にDNAを固定することで、この現象を検出することが可能です。下図のように、ハイブリダイゼーションによりチャネル表面に励起されるホールの数が増加し、ドレイン電流が増加します。さらに、我々はDNAのリアルタイム検出にも成功しており、ダイヤモンドの持つ生体適合性を利用して臨床応用が実現可能なデバイスとして期待されます。
 

図3 DNAハイブリダイゼーションによるFET特性変化