WASEDA UNIVERSITY
              
 
 

 ダイヤモンドSGFETを利用したバイオセンサの概要

(文責: 古川 慧)

 
 

当研究室で扱っているダイヤモンドトランジスタは溶液中の動作が可能なので、その特徴を生かしバイオセンサとして応用するための研究を行っています。バイオセンサとしての利用の幅は広く、当研究室でも多くのセンサを作製し評価をしています。詳細は各研究者のページでご説明するとして、ここではその基礎となるダイヤモンドトランジスタのご紹介をしたいと思います。

バイオセンサとは?

バイオセンサの定義はさまざまあり、たとえば生物の持つ高度な機能を再現したものだったり、生体分子を利用したものだったりします。検出の仕方も蛍光標識を付けてその光によって検出対象を見たり(小さくて肉眼では見えないため)、電流や光の変化を検知して検出したりと多種多様です。

我々が作製しているバイオセンサはトランジスタに生体分子を固定して、その機能を利用しDNAやイオンなどを検出する装置です。トランジスタの中でもFET ( Field Effect Transistor:電界効果トランジスタ )を利用していますが、これはゲートという部分の電圧で半導体(ここではダイヤモンド)の中の電荷(ダイヤモンドではホールというプラスの電荷)を引っ張り出し、それに伴う電流の変化を検出します。このような検出方法を電荷検出型と言います。我々はそのゲートを溶液に浸し、溶液中のDNAやイオン、pHの変化を検出できるセンサを作っています。
当研究室ではこれをSGFET ( electrolyte Solution-Gate FET:電解質溶液ゲートFET )と呼んでいます。

 


 

電荷検出型のセンサの特長は?

溶液中に存在する検出対象をダイレクトに検出できます。たとえばDNAの検出ですと、普通は蛍光標識を導入し、蛍光顕微鏡という暗室でしか使えない装置で見なくてはなりません。また、蛍光標識には放射能を持つものもあり取り扱いもコストも大変です。その他の方法でも装置が大がかりで技術が必要だったり、コストが高かったりします。しかし、電荷検出型では溶液中の電荷の変化をそのまま特別なことをしなくても検出することができ、ソースメーターさえあればどこでも誰でも簡単に使用することができます。また、後述するようなダイヤモンドおよびFETならではの利点もあります。

 
 

ダイヤモンドを使うことの利点は?

第一は非常に安定な物質であるということです。ご存じの通り世界一硬い物質ですが、それは科学的に言えば安定という特徴の一つです。パソコンの中などにあるトランジスタが水の中で動くというのは不思議な感じがしますが、それもこの安定性のなせる業なのです。普通、電気を流すものを水中で使うとなると、水中に電気が漏れたり、溶液そのものに化学反応を引き起こしたりするものなのですが、ダイヤモンドはこの安定性の為にそうしたことがほとんど起こりません。こういった特徴を電位窓が広いと言ったりします。

第二は作製のプロセスが簡単ということです。一般にSi(シリコン)を使ったトランジスタでも同様に溶液中で動作するものもあります。しかし普通のトランジスタはもちろんそのままでは溶液中で動作しません。ですから、ゲート部分に絶縁膜をつけるなどプロセスが複雑になります。ダイヤモンドトランジスタではそのような作業をしなくても動作します。これは将来、製品化する場合の大きなメリットとなります。

第三はコストが安いということです。ダイヤモンドなのに安いの?と思われたかもしれませんが、使用しているのは宝石のような大きく厚い、結晶性の高い天然のダイヤモンドではなく、メタンガスから合成した人工の薄いダイヤモンドの多結晶膜なのです。研究室で自分たちで合成できますし、第二で紹介したプロセスが簡単という利点と合わせるととても安価なセンサをつくることができます。

 
 

何が検出できる?

当研究室ではこれまで、SGFETのpHとハロゲンイオンへの感応性の調査、およびゲートに酵素を固定したグルコースセンサ、尿素センサの開発に成功しています。現在はDNAやRNA、カルシウムイオンなどの検出を研究しています。また、細胞を使った新しいセンサの開発にも着手し始めました。個々の研究に関しては、個別のページにその説明を譲ります。

今後の可能性は?

検出対象となる物質はまだまだたくさんあります。ゲートに固定するものを換えるだけで様々なものを検出できるので、これからも検出対象を拡大していきます。
また、FETを使ったセンサなので微細化することが可能です。こうした研究もおこなっていて、今でも手のひらサイズのセンサですが、センシング部分が約1/100のセンサの開発にも成功しています。FETは小さくすればするほど検出感度が高まるので、ワンチップ上で様々な種類の物質を検出することが可能になると考えています。そうなれば、尿や血液一滴から健康状態のチェックや疾病の早期発見ができ、オーダーメイド医療やゲノム製薬という未来の医療へ応用していくことができるでしょう。