WASEDA UNIVERSITY
              
 
  FIB(収束イオンビーム)による触媒金属の打ち込み  

化学気相合成(CVD)法を用いて, カーボンナノチューブ(CNT)を合成する場合, CNTは触媒微粒子に成長するという特徴を持ちます。CNTの配線応用では, ビアホール(穴)の底からCNTを垂直方向にボトムアップ成長することでLSI多層配線の下層と上層を縦方向に架橋する構造を目標としています。そのため, 配線応用で最も重要となるのはナノサイズのビアホール底への触媒微粒子形成技術になります。通常, 触媒はスパッタリングや電子線蒸着により形成することができますが、この方法ではビアホール底へ精度良く触媒を蒸着することは困難になります。図1(a)はスパッタによるビアへの触媒形成を示していますが, ビアの直径が小さくなると触媒がビアの側面にも蒸着されてしまい, 配向CNTが得られないという問題が生じます。この問題を解決するには, より指向性の高い触媒形成技術が必要となり, 最適な方法としてイオン注入法が考えられます。図1(b)はイオン注入によるビアへの触媒形成を示しています。我々はイオン注入法として, 収束イオンビーム(FIB; Focused Ion Beam)装置を使用しました。FIBは次のようにしてイオンビームを照射します。液体金属イオン源(LMIS:Liquid Metal Ion Source)に電圧をかけてイオンを引き出し, 最初のレンズで1段階目のビームの収束を行います。LMISは, イオン源の融点を下げるため, 通常はイオン化したい元素と他の元素との合金を用います。その中から所望のイオンのみを取り出すために, E×B質量分離器により電界Eと磁界Bをビームに印加し, 質量による分離を行います。さらに, イオンビームを, 設定された大きさの径の穴に通すことで出力を制御し, 2つめのレンズで2段階目のビームの集束を行う。これによりビームの径が数十nmに集束されてステージ台にある試料に照射されます。イオン注入は高真空プロセスであるために指向性が高く, 打ち込み精度も良いので正確に触媒量を決めることができます。さらにFIBによるイオン注入はLSI配線の切断・接続といった加工に使われており, LSIプロセスに適応した技術として既に確立されているため, この方法はCNTをLSIのトランジスタや配線に応用する上で非常に有益なものになります。

 

図1   (a) スパッタを用いたビアホール底への触媒堆積
(b) イオン注入法を用いたビアホール底への触媒形成
 

我々は, イオン源としてニッケルを使用し, 絶縁膜(SiO2)上にイオン注入によって触媒微粒子を形成し, CNTを成長させることに成功しています(図2)。今後は, 配線応用に向けて実際にビア構造を作成し, イオン注入を用いてビアホールの底の金属上に触媒を形成し, CNTを成長させることを目指します。

 

図2 (a)イオン注入法で作成した触媒から成長したCNT (b)CNTの高分解能像