WASEDA UNIVERSITY
              
 
  カーボンナノチューブのLSI配線応用  

コンピュータを始めとした電気機器に搭載している大規模集積回路(LSI: Large Scale Integration)は一般的に微細化することによって, 高性能化・低消費電力化といったメリットが得られます。しかしながら, International Technology Roadmap for Semiconductors (ITRS) 2005によると, この微細化が今後も進むと, 図1 (a)に示すようにLSIの配線部分に流れる電流密度が上昇し, 現在主流として用いられている銅の電流密度耐性(106 A/cm2)を上回ると予測されています。この結果, エレクトロマイグレーションと呼ばれる金属の原子配列の乱れに起因した断線現象が顕在化し, 信頼性に揺らぎが生じます。さらに,微細化に伴い電子は膜表面や界面で散乱される確率が高くなるだけでなく, 配線内での密度の増加傾向にあるボイド, 格子欠陥, 不純物及び結晶粒界でも散乱される確率が高くなり, 銅の低効率は上昇してしまいます。これに対して, カーボンナノチューブ(CNT)は銅に比べて3桁以上高い電流密度を流すことができ, 高い熱伝導性, バリスティック伝導といった性質を持つため, LSIの新配線材料として期待されています。CNTをLSI配線に応用するためには, 層間絶縁膜耐性といったLSI配線のプロセス上の制限から400℃以下で合成することが好ましいです。さらに抵抗が低いほどRC配線遅延を小さくして処理を高速化できるため, 銅並みの低抵抗を実現するために高密度に成長させる必要があります。CNT一本では銅の抵抗には及ばないものの, バンドルを形成することで, 銅以下の抵抗を実現することができるからです。CNTは垂直方向に成長するため, 図1(b)に示すように, 上下の層を結ぶ縦配線にCNTを応用することを目指しています。

 

図1 (a) ULSIに要求される電流密度耐性 (ITRS2005より) (b) LSI多層配線模式図

 
我々は, 実際に 図1(b)に示すように縦配線がCNTバンドル, 横配線が銅から成る回路を試作し, CNTの配線としての性能評価に成功しました。CNTは, 先端放電型ラジカルCVD装置とCo触媒を用いて390℃で高密度に成長させています。ビアから成長したCNTを図2 (a), 化学的機械研磨 (CMP) 処理を施し, CNT表面を平坦化した様子を図2 (b) , 両者の抵抗値の測定結果を図2(c)に示します。抵抗値はCMP処理を施した方が優れた性質を示しました。これより, LSI配線プロセスに適合する温度帯で成長したCNTに実際に電流が流れることを実証しました。抵抗値は銅には及ばないものの, 世界トップクラスの値を得ることができました。今後は, CVD条件の最適化により, CNTの密度をさらに向上させて抵抗値の低減を目指します。
 

図2 (a) ビア構造から成長させたCNT (b) CMPで平坦化したCNT
(c) CMPの有無によるCNT電気特性の違い

 

謝辞

本研究はNEDOよりSeleteに委託されたMIRAIプロジェクトの一環として実施しています。

発表論文

[1] D.Yokoyama, T.Iwasaki, T.Yoshida. H.Kawarda, S.Sato, T.Hyakushima, M.Nihei, Y.Awano, Appl.Phys.Lett. 91, 263101 (2007)

[2] D.Yokoyama, T.Iwasaki, K.Ishimaru, S.Sato, T.Hyakushima, M.Nihei, Y.Awano, H.Kawarada, J.J.Appl.Phys. 47, 1985 (2008)

[3] D.Yokoyama, T.Iwasaki, K.Ishimaru, S.Sato, M.Nihei, Y.Awano, H.Kawarada, Carbon, 48, 825 (2010)