WASEDA UNIVERSITY
              
 
  カーボンナノチューブの成長メカニズム
 

図1に実際に成長させた単層カーボンナノチューブのSEM像を示します。CVD条件は成長温度600℃、メタン45sccm、水素5sccm (トータル20Torr)、マイクロ波パワー60W 成長時間40min+20minです。SEM像が示す通り、高密度に垂直配向しています。ここで見えているカーボンナノチューブは、バンドル(束)を形成しています。

 

図1.高密度垂直配向した単層カーボンナノチューブのSEM像(a)とその高倍率像(b)

 

図2. 2層のラマンスペクトルの低波数表示(a)と広範囲表示(b)

 

また、図2にそのラマンスペクトルを示します。(a)はその低波数表示でRBMと呼ばれる単層カーボンナノチューブ特有のピークが100cm-1付近に観測されています。このピークの値から直径が計算でき、約2nm前後であることが分かります。(b)では1590cm-1付近にG-bandと呼ばれる大きなピークが観測されており、試料がカーボンナノチューブであることが確認できます。尚、ラマン装置のレーザ励起波長を2種類(514nm、633nm)で観測することでRBMに違いが見られ、より正確な直径分布が分かります。 さて、今回の実験では成長時間を変えて断続的に成長させています。実験条件は40分間の成長後マイクロ波とヒーターを切り、その後再び同じ成長条件で20分成長させます。そのことによって両者に境ができます(これをマーカーと呼びます)。このマーカーは最初の成長後にチャンバー内のカーボンの残留ガスによってわずかに成長が進んだものと思われます。ただし、ヒーターを止めているのでその急激な温度変化によってできた欠陥ではないかと思われます。このマーカーができたことで次のようなことが分かります。一つは成長速度が一定であることです。図1(a)のSEM像の1層目と2層目を比べるとほぼ2倍になっていることが分かります。これにより、時間によってカーボンナノチューブの成長を容易に制御できると言えます。さらに1層目と2層目の位置から成長モードが分かります。最初に成長させた1層目が下にあれば、カーボンナノチューブが先端から成長、逆に上にあれば根元から成長していることになります。今回の実験結果から1層目は上にありますので根元成長していることが分かりました。

 

結論

先端放電型ラジカルCVD装置を用いて高密度かつ垂直配向単層カーボンナノチューブを断続的に成長させることによってマーカー成長に成功し、ナノチューブの成長モードが根元成長であることが明らかになりました。この方法はリアルタイムで成長を観察する必要もなく効率的な手段です。ただし、TEMでマーカー部分を観察することが難しく今後の課題となっています。

発表論文

[1] T.Iwasaki, G.F.Zhong, T.Aikawa, T.Yoshida, H.Kawarada, J.Phys.Chem.Lett.B, 109, 42 (2005)

[2] G.F.Zhong, T.Iwasaki, K.Honda, Y.Furukawa, I.Ohdomari, H.Kawarada, Chem.Vap.Deposition, 11, 127 (2005)

[3] T.Iwasaki, J.Robertson, H.Kawarada, Nano lett. 8, 886 (2008)